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あなたの会社が理不尽な理由

主題はそのまま本のタイトルです。 

経営学者の読み方 あなたの会社が理不尽な理由

経営学者の読み方 あなたの会社が理不尽な理由

  • 作者:清水 勝彦
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2016/05/19
  • メディア: 単行本
 

図書館で本を探していた時に「なんだこの直球のタイトルは?」と思い手に取りました。軽い気持ちで読み始めたのですが、構成が自分のツボにはまってしまい早1ヶ月ほど借り直ししながら読んでます。

(オススメする人)

  • 会社の理不尽さにイライラするけど、どこも同じような気がしている
  • 文献引用が多くて、知識の広がりを感じるのが好き

本の構成

本のあらすじはこちら。

「うちの会社の会議では、何億円もの失敗や投資より、お茶菓子代やタクシー代の議論に時間をかけるのはなぜだろう?」
「うちの上司は部下に言うことと自分でやっていることが全然違う。なんて理不尽な会社なんだ」――。経済合理性を追及するはずの会社で、このような理不尽なことが起きるのはなぜでしょうか?
この疑問に、ビジネス書から小説まで幅広いジャンルの書籍と、経営学の必読論文を取り上げ、経営学者の視点で分かりやすくこたえていくのが本書です。本書では、誰もが手に取ったことのある本や、MBAの学生なら誰もが読む論文を取り上げていますが、単なる読書案内や論文解説ではありません。
例えば小説を経営学者の視点で読み、現実の経営課題に役立つヒントを探っていきます。
本書で著者が指摘するのは、経営課題を前に、何か「よさそうな答え」を求めようとする発想が、かえって組織の停滞を招いているということです。
「MBAは役に立つのか?」「経営学は実際の経営に本当に役立つのか?」という問いかけにも、こういった「答え」を求める発想が根底にあると言います。
企業をはじめとした組織が先へ進み、成長し続けるためには、「答え」より先に、現実の課題をきちんと認識することが重要で、言い換えれば「へんだぞ」に気づく「視点」を持つことがイノベーションの根源だと、筆者は強調します。経営学の視点で本を読み、目の前にある仕事の課題を見つめ直す訓練をすることで、これまで見えなかった経営の「気づき」が得られます。本書は、組織のリーダーはじめ、ビジネスパーソン全般にとって、課題解決のために必要な「気づく力」を鍛えるための必読書です。

引用:経営学者の読み方 あなたの会社が理不尽な理由 - 清水勝彦 - Google ブックス

本書の特徴は、経営学に関する12冊の書籍と16本の論文を紐解きながらその紹介だけでなく複数書籍のエッセンスをリンクさせていくところです。お堅い本の話かと思えば、野村監督の長島一茂に対するコメントが出てくるなどの紙面上での駆け引きがなかなかに面白いです。紹介するのは、本のタイトルにもなっている「あなたの組織が理不尽な理由-組織の不合理さを説明する「制度派理論」についてです。

あなたの会社が理不尽な理由

多くの組織は似通っている

「組織はかならず効率性、経済合理性に動いているわけではない」と本書では説明しています。

(暗黙の)社会的ルールは、組織や企業が正当であると社会で認められ、(人が採用できたり、銀行と取引できたりという)資源を獲得し、安定して生き残るために取り入れなくてはいけない「通説」mythになっている。

(中略)

ある仕組み、あるいは施作を組織が採用するのは、そうした方が効率的だからという合理的な理由があるわけではなく、社会で「そうして当たり前」と見なされているからです。

「そうして当たり前」であることについては明確な根拠がない。

 これは、社会的慣習に従った方がうまくいくから取り入れるんだけど、それ自体は合理性・効率性を持たないというものです。「道路が雨で濡れているからと言って、社長が電車で会合に出向くと軽く見られる」とかそういった類のものです。

 組織は、社会的な通説、神話を取り込むことによって「正当性」「資源の獲得」をする必要があり、必ずしも効率性、合理性だけで動いているわけではないと本書では論じています。これが組織における理不尽の正体です。

 ただし社会的な正当性を確保しながら、一方で効率面でも業績を上げるために組織は本音と建前を使い分けます。経済活動に参加しているので儲からないといけないってやつです。これが組織の合理的である部分とそうでない部分を内包してします。 

 理不尽には種類がある

ただこれらの理不尽にも大きく3つの種類があります。

  1. 新入社員、若手社員のいう「うちの会社は理不尽だ」
  2. 上司のいう「そうそう、組織は理不尽だ」
  3. 経営者に対する、社会の仕組みや通説のプレッシャーからの「社会は理不尽だ」

1.は「うちの会社はなんでこんな不便なこと、意味のないことをしているんだ」と若手が感じてしまう理不尽です。これは僕が現在陥っているものでもあり、会議がなかなか減らないとか権限をどの部門を持っているか曖昧にされてたらい回しにあったりなど日々感じています。

 この間は関係者全員に「これを決めるのは俺じゃない」と言われて、おかしいなと思って調べてみたら数回に渡って行なった会議のだれも実は決裁権を持っていないと知って驚きました。見かけ上権限ありそうに振る舞っていたので「なんで偉そうに自分のプランを評論されないといけないのか」と悲しくなったものです。

 そうやって理不尽を感じた時に、そこで思考停止にならずになぜそうなのか?どの点が、どのような条件だとそうなるのか、「うちの会社は理不尽だ」の次を考えることが、組織の仕組みを本当に解決するために必要なことです。さっきの話だと、組織が大きくなりすぎて階層が分かれてしまい、段階的にしか提案が通らないが故に、「決裁者はおそらくこういうだろう」の「だろう論議」が始まってしまうために無駄な会議が量産されます。本当は決裁者に近い人とできるだけコミュニケーションを取りつつ、中間管理職のメンツを潰さないようにコミュニケーションの順序はしっかり守るのがいいだろうと思います。部署間の連携ではコミュニケーションの順番を間違うと二度手間三度手間になってしまいますね。

 2.に関しては、若手時代に感じた理不尽に慣れてしまって「そうそう、そういうもんなんだよ」と通説の話を上司はついついしてしまいがちです。ただ通説が必ず合理的・経済的とは限らないので、そう言った時は「この通説は本当に合理的なのか?」「背景はなんなのだろうか?」と考えるチャンスになります。

 最後の3.は、社会の仕組みや通説のプレッシャーは強く、ある意味競合相手と同質化するのは仕方ない「理不尽」になってしまうと論じています。しかしそれは「レッドオーシャン」への入り口であり、大きな利益を得ることはできません。

 他者と差別化を図りたい、しかしそんなことをしたら官庁から睨まれるかもしれないし、流通も協力してくれない、顧客が本当に協力してくれるかも不明で。。。などなど悩みはつきません。しかし、差別化とはそういう難しさのことなんですね。

知ると自分が何に不満かが分かってくる

 本書を読んで感じたのは、「僕が会社に対して感じていた不満は、こうやって説明できるんだ」という気づきでした。本書の他の事例でも、「あーこれあるある」「イライラするよねー」と共感できますし、何よりそれらに一定の学術見解が与えられています。自分の身の回りで起こったことを一般化することで深く理解することができるんですよね。

 僕も常々「なんで会社はこんなに理不尽なんだ」と思っていたのですが、理不尽な状況になる経緯、理不尽の理由を知ることでただの苛立ちとは変わってきます。そこから自分の行動で何を変えたらいいかも徐々に見えてくるのかなあと思います。

問題解決ができないのは、努力が足りないとか、いい解決案が見つからないからではなく、そもそも現実の基本的理解が十分でなく「間違った問題」を解決しようとしているかもしれません。

「現実をよく理解する=description」のために理論を理解することが必要なんですね。

おわりに

「自分の意見を反映させて〜」とか思ったんですが、なかなか理解することでいっぱいいっぱいでした。なるほど経営学も面白そう。

ではでは!

2019年に読んだ本ベスト5 - たけとけたと片付かない部屋