たけとけたと片付かない部屋

製造技術の仕事や家事・育児、趣味について書きます。

茨木高校演劇部愛微塵最終公演を観て

恩師が顧問をしていた高校の演劇部が活動休止になる。

 それを知ったのは平成の終わる春で、花粉症と格闘していた頃だった。

僕の恩師と高校演劇部

 僕の恩師である大前田一さんは、かつて「劇団 猫のお尻」という劇団を主宰していて「劇団新感線」が小劇場時代に活躍していた扇町ミュージアムスクエアというところで芝居を打っていたそうだ。関西演劇界の盛り上がりと、そこから徐々に元気をなくしていく姿を見てきらしい。僕が高校生として別の高校に通っていた頃には、僕の世迷いごとで演劇部を勝手に再開したのを、裏から表から導いてくれて3本のお芝居を打つことができた。その頃に演劇の面白さに気づき大学でも演劇を続け、伸び伸びと悩むことできた。感謝しかない。

 その恩師である先生が別の高校に移られて演劇部の顧問をされていることは知っていて、以前観に行ったときは「劇団員がたくさんいるような学校で芝居するのは楽しいよねー」なんてお気楽に思っていた。部員がいなくなることによって活動休止となることが決まったという。てっきり安泰かと思っていたのだけれど、そんなに世の中優しくはないようだ。 それがあってかDMを送ってもらえたのでこの前回公演を観に行ったらこれが面白かったので、この公演も観ようと思ったわけです。

「蝶々結びのリボン」

 観に行ったお芝居は、旅芸人として半生を過ごした女性を描く一人芝居だ。

 父から幼少期より芸人として育てられる少女が多くの恋を経験しながら芸人として、女性として成長していく波乱万丈の人生を描いた物語である。

 演じていた小嶋彩加さんは表情豊かな演技と芝居の緩急がよくはまっていてあっという間の2時間だった。一人芝居というのは当たり前だけど舞台上に1人しかいない。物語の緩急をつける役割となる人物の出し入れができない状況で、1人で芝居のスピード・盛り上がりをつけないといけない。そこにスリリングなお客との駆け引きがあるのが一人芝居の醍醐味だ。

 お客さんとの押しては引くを舞台の上手下手、衣装替えをうまく駆使してくる。舞台上の想像力を広げてから要所でお客にボールを投げる台詞回しも随所に入れ、途中からは役者さんの目線の先が動くのが楽しくて次に何が起こるのかワクワクする。思いふけって視線を移す演技が好みだったなあ。

 舞台上で着替える衣装が個性豊かで「次はどれを着て演技するんだろう?」と思ってたらほとんど使わない。かと思えば養生テープを帯に使って着物を羽織っていて「おいおいどういうことなんだよ」と気を緩ませる、と思えばテープをうまく使って「良いではないかー」のシーンを演出していて思わず唸ってしまった。

 要所要所で紙風船を舞台に展開していく演出も舞台の雰囲気と合っているだけでなく、日常と非日常を融かす役割を担っていたりもする。「引き出しにいくつ紙風船入れてるんだよ」と突っ込みたくなるような仕込み方をしているのも楽しかったよね。

色々書いたけど、想像力をかき立てるエネルギッシュな芝居で面白かった。

高校演劇としてお芝居を継続すること

 こんな芝居ができる演劇部が活動休止なんて勿体無いとも思いつつも仕方ないのかなと思ったりもする。恩師の先生は「自分の面白いと思うものをお客さんに出す」という演劇を突き詰め、小劇場の演劇を目指していた。だから僕に構ってくれて居た頃と同じように高校演劇の賞レースには出なかったんだと思う。例えば大会に出れば「審査」という評価軸が生まれてしまって、手段が目的化することもある。舞台で一番魅力的な「俺が絶対に面白いと思って「どうだ!」って出してお客さんにはまった瞬間」を感じるにはその方がいいのかなあと僕も思ったりする。高校演劇の大会には出たことないので分かんないけど。

 ただ高校演劇の大会を目指すのは高校生にとって理解しやすい。そして賞レースは青春だよなあとつくづく思う。吹奏楽部とかそうだよね。

 まあ小劇場の芝居の指導なんてほとんどの教師ができないので再現性もないし、初めから茨の道ではあるのだろうなあ。

関西と高校生と演劇と

 小劇場の演劇を観たことがある人は関西には少ない。大半の人の演劇のイメージは「ドラマやアニメに出てくる学芸会」「吉本新喜劇」そして「劇団四季」のイメージだ。ちなみに関西では「吉本新喜劇」がべらぼうに強い。土日は大抵「吉本新喜劇」を観ながら昼飯を食べる種族ですよ、関西人は。

 仮に小劇場で活躍していた野田秀樹さんや鴻上尚史さんなどを知っていても小劇場の熱量を知らない事が多い。いわんや高校生では皆無である。というか、僕も高校生の時はさっぱりだった。芝居の見方とか知らなかったし、どこでやっているのかもさっぱりだった。ネットでも検索の仕方がわからなくて関西でどんな芝居をやっているのかさえ知らなかった。

 でも僕は幸運にも高校生の時に小劇場の熱を知っている人に演出をつけてもらった経験があるから芝居を楽しめるようになった。僕の恩師がこれからどうするのかは知らないが、これからも僕みたいな迷える子羊を細々とお芝居という魔の道に誘い込んでくれればなあと思う。

ではでは!